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    kou.ta が書いた、何かの再利用だったりするショートノベルとかです。お暇な方はどうぞ。

 



[ 2008 / 12 / 13 ] update

 

 

 全国高等学校野球選手権、県大会予選。
 あと一勝すれば、憧れの甲子園の切符を掴む事が……なんてものは遠い夢物語で、まだたったの二回戦。
 しかも相手に十点差つけられた五回の裏の攻撃。
 この回を無失点に抑えられれば、コールド負け成立。
 僕はまだ二年で来年が残っているものの、先発ピッチャーを任されている以上はコールド負けで夏を終わらせる事は三年に申し訳なかった。ベンチ内にはもう今年は終わったものだという空気が流れていて、僕は端に追いやられるように一人、座っていた。
 あと少しで、泣きそうだった。
「おい、吉野」
 近寄ってきたのは三年で八番、ライトの永田さんだった。永田さんは守備はそれなりにうまいものの、打席に立つとめっぽう打てない。僕が見た永田さんのヒットは、数える程しか無いだろう。
「気にするな。お前は今日の試合を来年に活かせ」
「……はい」
 不思議な雰囲気を持った人で、練習中に良く空を見上げている事が多く、いつも何を考えているのか分からない人だった。この回は六番からの打順だから、このまま凡退し続けると永田さんが最後の打者という事になる。
「夏、まだ続けたいか?」
 一人目の打者が三振で打ち取られた時、永田さんはいつものように空を見上げて言った。
 こんな時に何を言っているんだろうと思いながら、それが県予選の事を言っているのだと思い、僕は無言で頷く。
 声を出すと、泣いてしまいそうだった。
「そうか……、そうだよな」
 永田さんは泣きそうな僕の頭にポン、と手を置いて、そして微笑みながら何かを呟いてベンチを立ち上がった。『任せろ』と呟いていたのだと僕が気付いたのは、永田さんは既に最後のバッターとして打席に立った時だった。
 まるで『あっ』という声が聴こえてきそうな、投手の顔。
 完全な失投。
 永田さんは思い切り振り抜いた。
 キーーンッ!
 金属バット特有の軽快な音が響く。
 大きく、大きく、弧を描いて飛んでいく。
 皆がベンチを乗り出して追った。
 視線の先、ボールはそのまま外野フェンスを越えてった。
 土壇場でコールドゲームを崩した張本人は、愛想程度にこちらに手を振りながら、ダイヤモンドを廻っていた。
 僕は思った。
 もし、この世の中に本当に奇跡だとか、魔法だとかというものが存在するのならば、こういうものを言うのではないか、と。
 ゲームセットまであと四回。九点差。
 どうやら、まだ夏を終わらせる訳にはいかないようだ。