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    kou.ta が書いた、何かの再利用だったりするショートノベルとかです。お暇な方はどうぞ。

 



[ 2008 / 12 / 13 ] update

 

 

 全ての荷物を部屋に運び終え、空気を入れ換えようと窓を開く。三月中旬の風は徐々に暖かくなってきてはいるものの、虫が入ってくるような季節でもないから網戸もいらないだろう。
「よっと」
 大の字になって寝そべると、畳の匂いが祖母の家に帰ってきたようで、くすぐったかった。
 大学卒業後、歌手になってやると実家を出た。父とは一言も言葉を交わさず、母には猛反対され、兄だけが一言、頑張れと見送ってれた。当ても無く上京し、この部屋を借りた。
 今時探せばまだあるもんだなー、てな感じの六畳半のボロアパート。ここが今日から私のアジトだ。こんなアパートでも一ヶ月で諭吉が約六人も飛んでくんだから、一人暮らしってのは大変なもんだ。ロフト付きデザイナーズマンションは彼方へ消えた。
 将来に不安が無いって言ったら、嘘になるに決まってる。
 ホームで電車を待っていた足は震えていて、電車が動き出してからは涙が止まらなかった。それでも夢を諦める事なんて考えられない私は、本当にどうしようもない親不孝な性格をしていると思う。
 空が明るいうちに必要なものだけでも出して置かなきゃ。これからは、全て自分で行わなければならないんだ。
 膨大な量の段ボールが、私にとっての課題に思えて身体が震えた。
 早速CDコンポを取り出そうと、適当な段ボールを開く。
 一つ目の段ボールは、冬物のセーター。この箱はそのまま閉まっておこう。
 二つ目の段ボールは、ボロボロのぬいぐるみ。昔、兄に買ってもらったものだ。
 兄の顔を思うと心が重くなる。とりあえず保留。
 三つ目の段ボールは、小さい箱の割にずっしりと重い。こんな段ボール、あったっけ。
 開いてみると、
「……あめ?」
 のど飴が、箱一杯に入っていた。それらをかき分けていくと、段ボールの底に小さなメモが置かれていた。
『喉を大切に』
 それを読むと、クシャリと丸めて窓から外に投げ捨てた。
「応援するか、反対するか、どっちかにしろっての……」
 目尻に浮かんだ涙を拭いて、飴を一つ口の中に放り、またCDコンポを探しはじめた。
 涙がポロポロと溢れていた。
『とっとと帰ってきなさい。待ってるから。 父』
「絶対、成功させて笑顔で帰ってやるんだから……」
 いつか、十倍の数ののど飴を送りつけてやる。
 震える手で段ボールを漁り続ける。
 窓から入り込む風が、もうじき夜になる事を告げている。
 涙は止まらず、まだCDコンポは見つからない。